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上清水一三六の飛躍への暗躍

祝!ディープインパクト有馬記念優勝!!からもう1年・・・
「彼らはいつもそこにいる」(不定期連載)
ACT-2『パーキングメーターに気をつけろ!』(前編)

ここは都内某所にある『デニーズ』。
例によって例のごとく、その片隅の決まった席に4人の男が座っていた。
新聞記者の草薙、テレビ局のディレクター宍原、中学校の国語教師堂林、機械メーカーの開発研究員の折戸の4人である。
彼らは、高校のときの同級生で、今は当然別々の生活を送っているが、月に数回ファミレスに集まって与太話をするのが慣わしになっていた。

「おい宍原、いつまでメニューを睨みつけてるんだ。ただ見つめてたって料理が実体化するわけじゃないことくらい、いくらおまえでも認識してるだろう。それにしても折戸、一段と黒さに磨きがかかったな」
「今は夏のカレーフェアをやってるんだ。カレーの神様と自負している俺としてはいいかげんにメニューを決めたとあっては罰が当たる。もう少し時間をよこせ。しかし折さん、黒いといってもほどがあるだろう。何か塗ってるんじゃないのか」
「自分が神様だと言ってるくせに誰が罰を当てるんだい?そういうわけのわからない日本語の使い方は国語教師の僕としては納得いかないな。でもそれ以上に納得いかないのが折さんの黒さだ。『真っ黒病』じゃないの?」
「ちょっと、黙って聞いてればさっきからなんですか。会話の合間に僕の悪口を挟まないでくださいよ」
ジャンバラヤを注文しようとしていた、イカ墨を頭から浴びたような男が憤った。
「これは心外だな。我々は君のことを心配して言ってるんだぞ」
「どこが!だいたい真っ黒病ってなんですか。僕はいたって健康ですからね」
「まあまあ落ち着けよ、折さん。おまえさんがボビー・オロゴンなみに黒くなってることは否定しようがない事実なんだ。いったい夏休み中に何をやってたんだ?」
「特に変わったことはしてませんよ。基本的に家の中にいたし。外に出たのは、カヌーを一回やったのと嫁さんの実家に行ったくらいかな」
「カヌーをやったのはアマゾン川か?」
「違う!」
「嫁さんの実家はセネガルか?」
「もう!!」
次々に突っ込む草薙と宍原、それにいちいち反応する折戸を後目に、マイペースなインチキ教師堂林は注文を始めた。

折戸をからかうのにも飽きた二人もオーダーをしたが、大見得をきっていた自称カレーの神様宍原が和風ハンバーグを注文するのをみるや、毒舌新聞記者草薙の攻撃目標は杜撰なテレビマンに変更された。
「どうしておまえはいつもそうなんだ。言ったことをコロコロ変えやがって。責任感というものがないのか!」
「超有言不実行マンのおまえにそんなこと言われると思わなかったよ」
二人のやり取りに首を突っ込んでとばっちりにあうのを恐れた折戸は、コーヒーを一口飲んでから堂林に話しかけた。
「堂林君はどこかに行ってたの?」
「いや、どこにも。なにしろ先立つものがなくてねえ。欲しいものもいろいろあるんだけど何も買えないよ」
「俺、車を買おうと思ってるんだ」
突然大胆な宣言をしたのは、いつのまにか草薙との会話から抜け出していた宍原だった。
「給料の80%を交際費で失ってるおまえがどういう風の吹き回しだ」
「実はこの前、あるクイズ番組で、提供についてるA自動車が賞品にSUV車を出してくれたんだが、そこの宣伝部の人がいて、その新車の特性を朗々と語ってくれたんだよ。それを聞いてたらなんだか欲しくなっちゃって」
「なるほど。いかにも単細胞なおまえらしい話だな。それより、車といえば、今日ちょっと不思議な話を聞いたんだが・・」
「どんな?」
堂林がツナサラダを頬張りながら訊く。
「いや、うちによくくる広告代理店の深田ってやつに聞いた話なんだけどな。そいつの会社は日比谷にあるんだが、そいつの同僚で、俺も面識はあるが非常に車が好きなやつがいるんだ」
「ほお、三度の飯よりもか」
「おまえは大人しくカレーでもハンバーグでも食ってろ。・・暇さえあれば車雑誌を見てる、いわゆるカーマニアというやつだな。つい三ヵ月ほど前、新しい車を買ったらしくて、もちろん会社にもその車で通勤してるそうだ」
「へえ、マイカー通勤が認められてるんですね」
「まあ、特に禁止はされていないというのが実情だろう。だが、社員駐車場があるわけじゃないから、当然会社の周囲の空いている場所、パーキングメーターに置くことになるか場合によっては路駐だ」
「それじゃあ、毎朝駐車場所を確保するのに一苦労でしょうねえ」
「そこだ。今折戸が言ったように、あの辺で朝駐車場を探すのは非常に困難だ。オフィス街だからな。そいつの会社は、あるビルの5フロアを使ってるんだが、基本的にそのビルの敷地の表側と裏側というか、北側と南側に駐車スペース、パーキングメーターがあるわけだ」
「ふむふむ」
「表側は大きな通りに面していて、それに比べると裏側はビルとビルの間で狭くて目立たない通りになっている。そして、その男、中島というんだが、毎朝必ず表側に車を停めるそうなんだ」
「・・・それで?」
「だから、どんな状況でもだぞ。表側がいっぱいで裏側がガラガラでも、遅刻してでも表側が空くのを待ってるそうだ。ちなみに中島のデスクのあるフロアーに行くのには、裏から行った方が圧倒的に近くて行きやすいことは俺が保証するよ」
「・・・・」
「どうだ、なんかわけありの予感がするだろ。いくら問い質しても絶対理由は言わないそうだ」

しばしの静寂が流れ、草薙がなぜか勝ち誇ったような顔をしているなか、宍原が口を開いた。
「これは非常に簡単な話じゃないのか?」
「では、聞かせてもらおうか」
「そいつはカーマニアなんだろ。表側が大通りに面しているということは、当然通行量も多いわけだ」
「まあ、そうだな」
「なら答えは一つだ。自慢の愛車を人に見せびらかしたい、これしかないだろ。表側の方がより多くの人の目にとまるからな」
「やはりそうきたか。1,000人いたら998人くらい考えつきそうな答えだな」
「なにい、この素晴らしい解答が違うっていうのか」
「ああ違うね。俺もそう考えて聞いてみたんだ。そうしたら深田もそう思って本人に聞いたようで、そんなことはないという返事が返ってきた。どうやら中島は、楽しみは自分だけで味わいたいタイプらしいな」
宍原は無口になると、ウエイトレスを掴まえてコーヒーのお代わりを頼んだ。
「最近新しい車を買ったと言ったけど、何を買ったんだい?」
堂林が煙草を取り出しながら言った。
「ああ。それがなんとBMW323iなんだと」
「そいつは凄いね。500万くらいするんじゃないかな。さぞかし大事にしてるんだろうなあ。・・・まてよ。ということは、仕事中も気になってしょうがない・・わかった!大事な愛車が誰かに悪戯されないか、常に自分の視界に入ってるように表側に置いてるんじゃないの?」
「残念だが、さっきも言ったとおり、中島のデスクは裏通りからの方が近いんだ。やつの席から表通りに置いた車は見えないんだよ堂林先生」
「そうか・・・」
「折戸、食ってばっかいないで、何か意見はないのか」
「ええと、そうですねえ。例えば、上司と賭けをしていて、何日表通りに置けるか競ってるとか」
「・・・」
「あっ、こんなのはどうです。宝物とかあるいは死体とか埋めてあるんで隠すために常にその上に置かなきゃならないってのは」
「・・・・」
「どこかのスパイに情報を送る合図だったりして」
「・・・・・言いたいことはそれだけか。おい誰か、強力な漂白剤を持って来い。このまっ黒くろすけの色素を徹底的に落としてくれる。頭の中までな」
《後編に続く》
by kamishimizu136 | 2005-11-27 16:41
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by kamishimizu136
第2回上清水賞受賞作品決定
『ファイルNo.0136「清香島」・事件編』
「ペとハと愉快すぎる仲間たち」paperheartさま&hat_trickさま
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