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上清水一三六の飛躍への暗躍

祝!ディープインパクト有馬記念優勝!!からもう1年・・・
「彼らはいつもそこにいる」(不定期連載)
ACT-2『パーキングメーターに気をつけろ!』(後編)

『パーキングメーターに気をつけろ!』(前編)

「いや、あの、話はわからなくはないけど、いまいちイメージが湧いてこないんですよ」
「イメージ?」
「っていうか、実際にその場所の周りがどうなってるか知れば、なにかわかるんじゃないかなって」
「なるほど。折さんの言うことももっともだ。ビジュアルが欠けてるんだよ」
宍原が合いの手を打つ。
「ビジュアルねえ。まあそんなに意味があるとは思えないが、きみらがそこまで言うのなら・・」
そう言うと草薙は、紙ナプキンになにやら描き始めた。
「・・・できたぞ、ほれ」
草薙が差し出した紙ナプキンを見るや否や、三人とも非常に複雑な表情になった。
「・・・草薙君。これ何ですか?」
「なにって、見ての通り、そのビルの周辺地図だよ」
「このちょっと曲がった四角いものは何です?」
「それが話の中心のビルだろうが」
「その上の方にあるでっかい四角は何だ?」
宍原が訊く。
「公園だ」
「その横にある四角っぽいものは何だい?」
堂林も口を挟む。
「誰がどう見てもホテルだろう」
「・・・・・」
沈黙の中、宍原が、重病患者に病名を告知するかのように言った。
「おまえに画力がないのは知ってたが、ここまでだとは思わなかったぞ。俺には大小さまざまな四角形が無秩序に描きなぐってあるようにしか見えん」
「それぞれの建物に名前も書いてないし、道路と線路の区別もつかない。ひどいもんですよ」
「どっちが北でどっちが南か方角もわからないしね」
「・・・・・・」
さすがの草薙も、みんなの一斉口撃が応えたのか、何も反論せずにぬるくなったコーヒーを一口すすった。

「あっ、そう言えば・・」
突然、折戸が、持っていたバッグの中を引っかきまわし始めた。
「どうした折さん?」
宍原の問いかけに答えず、折戸はバッグの中からシステム手帳を取り出した。
「これこれ」
「なんだ。システム手帳じゃないか。それがどうしたんだ」
「実は・・・」
「折さん。なんでそんなもの持ってるんだい?」
折戸の発言は、堂林の質問によって遮られた。
「えっ、なんでって・・」
「一日中研究所に閉じこもってる折さんが、どうしてシステム手帳が必要なのかと思ってさ」
「そういやそうだな。貸してみろ」
折戸が声を上げる間もなく、システム手帳を奪い取ったのは、プライドをズタズタにされ仮死状態になっていたはずの草薙だった。
「どれ。・・・ふん、やはりな。スケジュール欄は真っ白だ。そのへんの銀行あたりでもらえる簡単な手帳でも足りるくせに見栄を張りやがって。・・飲み会の予定が二つとサッカーの試合が一つ。あとは、お好み焼きの美味しい店とギターのコードに電車の始発と最終時間らしきものが下手な字で書きなぐってある。・・おや、なんか挟んであるぞ。名刺か。『キャバレー日の丸 ケイコ』」
「ちょ、ちょっと、返してくださいよ。プライバシーの侵害だ。訴えますよ」
「愚か者。おまえにはプライバシーなんてものは存在しないのだ。だいいち守るほどのプライバシーなんか書いてないだろうが」
「いやはや、個人情報も気にしない横暴な新聞記者もいたもんだ。キャバレー通いがやめられない色黒研究員にも困ったもんだがね」
宍原は、やれやれと言った表情でプリンアラモードを口に運んだ。
「あのですね。僕が見せたかったのはケイコちゃんの名刺じゃなくて、これですよ」
折戸は、システム手帳の巻末を開いた。
「ほら、ここに主な街の地図がついてるんですよ。日比谷あたりなら載ってると思って」
「なにー。それを早く言え馬鹿もんが!」
草薙を無視して折戸は地図をめくった。
「おー、ここだ、ここ」
草薙が指し示したのは、住所でいうと千代田区内幸町にあるビルで、上の方にある公園は日比谷公園、横にあるホテルは帝国ホテルだということが判明した。
「なるほど。官庁街なんだ」
堂林が腕組みしながら言う。
「しかし、地図を見ても特に変わったところはありませんね」
「・・・折戸くん。全体図を見れば何かわかると言ってたのは君だったような気がするんだが、俺の記憶違いかね」
「まあ、こんなこともありますよ」
「きさま、俺はあんなに絵をコケにされたってのに何て言い草だ。この名刺、嫁さんに送りつけてやる!」
草薙と折戸の罵り合いをよそに、地図を見つめていた宍原の視線が止まった。
「わかった!」
「えっ、本当かい?」
「・・気がする。おい、草薙。その中島ってやつは、凄い高給取りかもしくは資産家の息子か?」
「いや、そんなことはない。年収も俺たちと変わらないだろうし、親も普通のサラリーマンのはずだ」
「ということは、そんな立派な車を買っちまったら金がないんだろうな」
「もちろん。ローンが終わってないから一年中ピーピーしてる。車以外のことでは極力出銭を抑えてるよ」
「車は大事にしてるわけだな」
「当然だ。恋人みたいなもんだからな。傷なんかついたらえらい騒ぎだろう」
「路駐をすることもあるって言ってたが、駐禁で捕まったなんて話を聞いたことはないか?」
「そういや、昔は多かったらしいが最近はないみたいだな」
「ふむ、やはりな」
「どういうことなんだ?」
「前にあの辺でロケをしたことがあるんだが、警察がいろいろとうるさくてすごく苦労したんだ」
「ああ、そういうことはあるらしいな」
「ただし、それは、例のビルの裏通りより南側、愛宕署の話だ」
「?」
「当時、そういうことに詳しいやつに聞いたんだが、警察は所轄がキッチリしてるし、署によって対応がまちまちなところがあるそうなんだ」
「すると・・・」
「そう。そのビルは、表通りの管轄が丸の内署で、裏通りの管轄が愛宕署なんだよ。偶然所轄の境目に建ってたんだ。そして、丸の内署は比較的取り締まりが甘くて、愛宕署は厳しい」
「なるほど。それで中島は表通りに・・」
「金がないから切符を切られるのもきついだろうし、レッカー移動なんかされて傷をつけられでもしたら大変だからな。取り締まりの緩い丸の内署管内に置いたってわけだ。他人に理由を話さないのも、話せば皆そっちに置きたがるだろうからな。気持ちはわかるよ」
「いいことを聞いた。他のやつに喋るぞと言って中島を強請ることにしよう」
「それじゃあ、おまえは金回りがよくなるというわけだ。よしっ、今日はおまえのおごりだ」
「何を言うか。そんなものは一番色の黒いやつが払うもんだ」
「あっ、またこの人はムチャクチャな論理を。宍原君、なんか言ってやってくださいよ」
「おごりなら別にどっちでも構わん。あっ、お姉さん、コーヒーお代わり4つ!」
そして、終わらない夜はいつまでも続いていった。
(了)
by kamishimizu136 | 2005-11-30 23:09
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by kamishimizu136
第2回上清水賞受賞作品決定
『ファイルNo.0136「清香島」・事件編』
「ペとハと愉快すぎる仲間たち」paperheartさま&hat_trickさま
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